修了生に聞く02
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【憲児陶苑】
堀田拓見さん
常滑市出身 陶研第30期生 (2014年修了)
堀田之江さん
東京都足立区出身 陶研第28期生 (2012年修了)
父の後を継ぎ、家業を営むとは思ってもいませんでした。20歳から6年間一般企業で働き、退職を機に父から「手伝わないか」といわれたのが、やきものに携わるきっかけです。それまでは、窯元に生まれながら陶芸に関する知識はほとんどなかったので、陶研に入所することにしました。同期の中でまったくの素人は私だけという状態でしたね。同期の研修生は個性的な人がそろっていたんですが、中でも私は穏やかだったらしく、「クッション役」や「まとめ役」という存在でした。
祖父の代からはじまった家業は、昭和の家の土間や庭先でよく目にした「タイルの流し台」を製造・販売するところからはじまったと聞いています。父の代には、当時常滑で盛んだった手挽きの練りこみ湯吞みや急須をつくるようになりました。多色の土でつくる練り込みのやきものは独特で、黄土に朱や緑の土を層にして、色が混ざりきらないように練ってつくります。その土で水挽きをして形をつくり、表面に水玉カットを施すことで、混ざりきらない土色が地層のように現れてきます。この技法によって「憲児陶苑」を象徴する風合いが生まれました。
今は、4色の土、7色の化粧土に彫りを用いていろいろな器を生み出せるようになりました。うちの製品のほとんどは、先代から繋がりがある常滑市内の問屋さんや商店さんに向けて出荷され販売されます。私の代からはじめた明るめの化粧土を使った茶器は、雑誌記事やSNSをつたって広くみなさんの目に留まるようになったんです。そうして今では東京・大阪・静岡などからも注文いただけるようになりました。これまで古風で渋い印象だった茶器に、白土を用い、鮮やかな化粧土と水玉カットを施したことで、現代の家庭になじみやすくなったんだと思います。
私たちのような窯元の役割は、持ち味を活かしてみなさんの要望に応えることだと思っています。商店さんからは、ロングセラー製品の注文はもちろん、特注品の相談もいただきます。特注品は手挽きならではの自由度の高さやサンプルづくりの身軽さ、手挽きでも均一で個数をそろえられるという技能が活きていると思います。
憲児陶苑は家族や親族の3~4人で運営していて、注文の数に応じて仕事量を決めていきます。妻が土の調合と練り(水分調整)、水挽きを主に担当。私は、乾燥の管理、化粧土掛け、彫り、仕上げ、焼成、納品。母や妹が出荷前の品質検査といった具合です。特注品のサンプルは、夫婦で話し合いながら私が手挽きから彫りまで仕上げます。家族で窯元を営んでいく利点は、お互いに家事や子育て、納品時間などの調整がしやすい点ですね。仕事は大体9時前~17時で、注文が多いときには残業もしますが、妻が家事に取りかかりやすいように工程の役割を分担しています。
常滑は窯業で栄えた町、先代から引き継がれた私たちのような窯元職人もいれば、陶芸作家として生きる方も大勢いらっしゃいます。やきものに対して懐が深い町の雰囲気や風土は日々のモチベーションを高めてくれます。
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憲児陶苑は、常滑のなかでも古くから窯業に携わる人が多く住む山方という地域にある。住まいに隣接された工房と3基の電気窯、離れにはギャラリーが建つ。周辺を散策すると陶製の墓標をはじめ、焼酎瓶や土管が埋め込まれた堀や土手を見ることができる。山方は、観光地として知られる「やきもの散歩道」とは少し離れるが、窯業で栄えた町の姿を色濃く残す稀有な地域といえる。複雑に入り組んだ道は、窯入れの忙しさに明け暮れた、かつての常滑の姿を想像できる。文様が彫られた井戸筒も見られ、散策しながら探してみるのもおもしろい。